2012年12月30日日曜日

2012/13シーズン前半戦総括




オランダ・エールディビジは前半戦を終え、ウィンターストップに入りました。

アヤックスは現在勝ち点37で、共に勝ち点40のPSVとトゥエンテを追って3位につけています。また、「死のグループ」と形容されたチャンピオンズリーグのグループDでは3位に終わり、ヨーロッパリーグへの出場を決めています。2月14日に決勝トーナメント一回戦のステアウア・ブカレスト戦が待っています。

今シーズンのアヤックスについて少しまとめてみたいと思います。


1.新加入選手

今シーズンの新加入選手は以下のとおりでした。

  • ニクラス・モイサンデル(CB)
  • クリスチャン・ポウルセン(DMF)
  • トビアス・サナ(RWG/LWG)
  • ラッセ・シェーネ(OMF/DMF)
  • イラン・ボッカーラ(OMF/DMF)
  • ダニー・フーセン(FW)
  • ルーカス・アンデルセン(FW)
  • ライアン・バベル(FW)


このほか、以下の選手がユースから昇格してトップチームでの出場機会を得ています。

  • ヨエル・フェルトマン(CB)
  • ステファノ・デンスヴィル(CB)
  • ミッチェル・ダイクス(LSB)
  • レズリー・デ・ザ(FW)
  • ファビアン・スポルクスレデ(DMF)
  • ヴィクトール・フィッシャー(FW)


アニタ、フェルトンゲン、ヤンセンといった中心選手がチームを去った今シーズンは、現実的な見方をすれば戦力はダウンしたと言わざるを得ないでしょう。総じて、高いパフォーマンスを見せている新加入選手はCBのモイサンデルとMFのシェーネくらいのもののような気がします。

ポウルセンは単純なミスが多く安定したパフォーマンスを見せることができておらず、サナは加入当初の衝撃を見せ続けることができませんでした。バベルは出場時にはターゲットマンとしてある程度の活躍を見せましたが、得点は2点のみで怪我で離脱ということで、WSDは「まったくの期待はずれ」といった表現までしていました(個人的にはこんなものだろうという印象なので期待はずれってことはないと思っていますが)。

フーセンやフィッシャーは経験不足感が否めませんでしたが、あの年齢でここまでやれてることは誇っていいことだと思うので、今後に期待でしょうか。モイサンデルはCLでも点決めたし、徐々にフェルトンゲンがやっていたような後方からゲームメークをするような役割を担いつつあるので、期待。個人的には、ボッカーラ、アンデルセン、スポルクスレデあたりに今後出場機会が増えていくことを期待しています。


2.前シーズンから引き続き在籍していた選手



際立ったパフォーマンスを見せたのはダレイ・ブリント(LSB)でしょうか。生粋のAjaciedながら今までファンからも散々いらないと言われ続けてきたちょっと可哀想な選手ですが、ユース上がりのダイクスとのポジション争いに勝利し、エールディビジでは18試合に出場しています。一対一で簡単にやられることも少なくなったし、持ち前の確かなテクニックを武器にした攻撃参加も地味ながら効果的だった。細かなパスをつなぐのがうまい選手なので意外とボランチあたりでも使えるんじゃないかと思ったり。あとはゴールやアシストがあればもっと乗って行きそうなので期待したいけど、契約延長するかどうかよくわからないのでもしかしたら1月に出ていく可能性も。

今シーズンチームを去ったフェルトンゲンからキャプテンを引き継いだのはシーム・デ・ヨング。NUsportによってエールディビジのファン投票人気ナンバーワンに選ばれ(※1)、かつVoetbal Internationalによって得点数とアシスト数を合計した結果「2012年で最も価値のあるプレーヤー」に選ばれました(※2)。CLでシティーに対して1勝1分の成績を残せたのは間違いなく彼のおかげです。アレナでファンラインのクロスを渾身のハーフボレーで叩き込んだ同点ゴールは個人的に今のところ今シーズンで一番興奮した瞬間でした。ここぞという時に必ず点を決める稀有な才能の持ち主。あとは安定したパフォーマンスを出せるようになれば…。とても好きな選手ですが、さすがにこんだけずっと出場しっぱなしよりは調子悪い時は下げて他の選手に機会与えてもいいんじゃないかと思います。

エリクセンは大事なところでゴールも決めているし、CLでもある程度活躍できたし、少しずつレベルアップしている感はあります。もはや欧州で注目の若手という話になると必ず出てくる選手。今シーズン限りかもしれませんが、応援したいです。

逆に少し気になるのはブーリフテルとトビー。ブーリフテルは、昨シーズン怪我をする前まではすごい選手だと思っていたけど、少し迫力がなくなっている感じがしますね。やはりウィングといえどもゴールが少ないのが気になります。復調に期待。トビーも安定感が出てきた気はするんですが、フェルトンゲン並みのスーパーなCBにはまだなれていない感じがしますね。来シーズンもアヤックスに留まりたいといったことを言っていたので、今期と来期でさらに成長して欲しい選手。


3.怪我人について

昨シーズンほど悲惨な状況ではないかもしれませんが、今シーズンも怪我に悩まされているアヤックス。シグトールソン、ボイレセンがいればチーム力は一段上がると思いますし、シーズン序盤で良いプレーを見せていたセレロが怪我をしたのは非常に残念でした。また、若手としては個人的に好きな選手でもあるクラーセンが怪我をしているのは残念。今年はもっと出場機会を増やして飛躍の年にして欲しかっただけに、これによって成長が止まってしまわないことを祈るばかりです。


4.放出されそうな人々

今シーズンはほとんど出場機会を得ることができていないスレイマニは、オーフェルマルスSDが「1月に出ていくのがベスト」と公言。デ・ブール監督の構想外になっていることが明らかになりました。いい選手なのでしょうけれど、怪我がちだし、何よりも財政的な負担が大きいことがネックになっているのでしょうか。確かにファンからしてみても、スレイマニよりもルコキ、フィッシャー、フーセン、アンデルセンなどの若手FWが成長していく姿を見たいというのが本音かもしれません。

また、昨シーズンはNACブレダにローンで借り出されていたロリー・ボネファチアですが、今シーズンのエールディビジでは出場機会を得ることができておらず、1月の移籍に向けてローダと交渉が進んでいる模様。プレシーズンでは少し試合に出ていましたが、敏捷性があり足元の技術もあってなかなか味のあるボランチだと感じました(CBもできるみたいです)。アニタに少し似てるかなと思ったので期待したんですが…ちょっと残念です。

また、上でも触れましたがブリントが残るかどうかは不明瞭な様子です。もしブリントが放出されるとなると、左サイドバックはダイクスとコッペルスになりますが、ボイレセンの怪我が長引く中この2人だけでシーズンを乗りきるとなるとかなり不安ですね…。ちなみに昨シーズンはそれなりに出場機会を得ていたコッペルスにもローン移籍の噂はある模様。


5.前半戦総括

CLについては、「ああやっぱりこのグループだと勝てないんだな」と思う一方で、チーム力の差を考えればシティーを下して3位に入り込めたことは大きな成果ではないでしょうか。リーグについては、結局首位まであと勝ち点3なので、十分な結果を残していると思います。

ただ、低調な内容の試合が多いことは非常に気になりますね。シティー戦みたいにサイド攻撃ばバッチリはまれば面白いサッカーができるんですが、昨シーズンのような迫力のある後方からのビルドアップやスペクタクルなプレーは少なくなっているような気がします。ヤンセンのクリエイティビティーがなくなり、フェルトンゲンの攻撃参加がなくなり、そしてフォアリベロとして動きまわるアニタを中心としたポゼッションができなくなり…といったように、戦術的に補完すべきポイントが多くあり、細部で自分たちのスタイルを確立するのに苦しんでいた印象でした。

ディフェンスの脆さは相変わらずなんですが、得点力不足が顕著でしたね。中盤を支配できても決められない、もどかしい試合が多かったと思います。あれだけゲームを支配していたら、もっと圧倒的に勝たなければいけないと思うのですが、そういう意味では退屈な試合が多かった気がします。トゥエンテ、フェイエノールト、PSVなど上位陣相手にはいい試合をしていたので、下位チームには圧倒的な差を見せてリードした上で選手もどんどんローテションして欲しいと思います。

補強が必要かどうかはよくわかりませんが、3連覇に向けてアヤックスらしいサッカーを見せ続けて欲しいですね。そして、アムステルダム・アレナでのヨーロッパリーグ決勝へ向けて、快進撃を見せて欲しいと思います。

それでは良いお年を。




※1
http://www.nusport.nl/eredivisie/2962631/siem-jong-sympathiekste-speler-eredivisie.html

※2
http://www.vi.nl/nieuws/233310/De-Jong-troeft-Malki-en-Mertens-af-als-MVP-van-2012.htm

2012年11月24日土曜日

アヤックスの未来とヴィクトール・フィッシャー



ブログを書いていない間に様々なことが起きました。チャンピオンズリーグ・マンチェスター・シティ戦での勝利、デ・カイプで引き分けに終わったクラシケル、フィテッセ戦の敗北による無敗記録の終了、ファン・デル・サールのマーケティング・ディレクター就任など。


今回フォーカスするのは、若干18歳、アヤックスの若き期待の星、ヴィクトール・フィッシャー(Viktor Fischer)です。Viktor Fischer - Wikipedia


フィッシャーはウイングとしてもCFとしてもプレーでき、相手ディフェンスを切り裂くシンプルで効果的なドリブルが特徴的な選手。パスセンスや得点感覚にも優れており、特にGKとの一対一では上手さが光ります。デンマーク代表にもすでに選出されています。



フィッシャーは10月20日、ヘラクレス・アルメロ戦でエールディビジデビューを果たし、KNBVベーカー杯のONSスネーク戦でトップチームにおける初ゴールをマークしました。2-2の引き分けに終わったチャンピオンズリーグ、アウェーでのマンチェスター・シティ戦でも終了間際に交替で出場を果たし、チャンピオンズリーグデビューも飾っています。



彼のエールディビジ初ゴールは、彼にとって初のスターティングメンバー入りの試合ともなったPECズヴォレ戦でした。この試合でフィッシャーは2得点をマークすることとなります。



90年代中盤の黄金期の後、長らく低迷しているアヤックスですが、ここ数年はクラブのレジェンドであるヨハン・クライフの哲学に沿ったクラブ運営を行うことによって、組織改革がなされています。今では、監督のフランク・デ・ブールを筆頭にユースチーム監督のウィム・ヨンク、アシスタントコーチのデニス・ベルカンプ、スポーツ・ディレクターのマルク・オーフェルマルス、そして新たに就任したマーケティング・ディレクターのエドウィン・ファン・デル・サールといった、クラブの黄金期を支えたオランダ人たちが要職に就いています。彼らの目指すのはクライフの哲学の実現。すなわちユース育成をクラブの根幹とし、伝統的な4-3-3でワイドにサイドを使ってボールを保持する攻撃的フットボールを行うことです。


だからこそ、ユース出身選手の活躍は不可欠。クライフを神格化するアムステルダムのファン達にとって、ユース出身選手が活躍するということは、試合結果やリーグ順位がどうであれ、クラブが正しい方向に向かっていることを示すことになるのです。


そんなクラブの姿勢を表す印象的なエピソードを紹介している記事がこちら。
AJAX AND THE ART OF BICYCLE MAINTENANCE



11月3日、肌寒いアムステルダム・アレナでアヤックスは0-2でフィテッセに負けようとしていました。アヤックスはオランダ王者。ファンがこの内容に満足するはずはなく、ブーイングと指笛が鳴り響きます。


そんな中ベテランのポウルセンに替わってピッチに入ってこようとしていたのは、18歳のフィッシャー。ブーイングは止まり、スタジアムを楽観的な雰囲気が包み込みます。


ファン達は、フィッシャーがハットトリックを決めてくれることを期待しているわけではありません。今すぐには結果を出せなくてもいい。クライフも言うように、トップクラスのプレーヤーを育てるのには時間がかかるから。アムステルダムのファン達はそのことを世界中のどのクラブのファンよりもよく知っています。


Don't worry about a thing, 'cause every little thing gonna be alright.
大丈夫、心配しないで。どんな小さなことまでも、きっとうまくいくから。
(Bob Marley - Three Little Birds)





これはフィッシャーに限った話ではありません。今もクラブは優秀な若手を多く抱えています。フィッシャーを筆頭に、ファビアン・スポークスレデ、ルーカス・アンデルセン、イラン・ボッカーラ、ダフィー・クラーセン、ダニー・フーセンといった選手たちが、往年の名選手たちの指導の下で、着実に実力を蓄えています。


De wereld van Fischer
フィッシャーは、アムステルダム川のほとりにある美しいホストファミリーの家で朝目覚め、学校の勉強を行い、昼になるとバッグに荷物を詰め込み、自転車に15分ほど乗って、クラブ施設のDe Toekomstへ向かいます。そこでフランク・デ・ブールから戦術的な指導を受け、デニス・ベルカンプからどうやって得点を決めるべきか教えてもらえるのです。若手選手にとってこんなに素晴らしい環境があるでしょうか。



焦らず、アヤックスでじっくり成長してくれればいい。近い将来、彼らは必ずやアヤックスをリーグ優勝に導き、チャンピオンズリーグの決勝トーナメントで結果を残せるチームに再生してくれる。そんな淡い期待を、アヤックスのファンは抱き続けています。



De Toekomst、オランダ語で「未来」を表すこの言葉。苦しい時期があっても、自分たちの信念を曲げずにいれば、必ずや未来はある。フィッシャーがいつの日か、チャンピオンズリーグ決勝トーナメントの舞台で、何十億もの金をかけてできあがったマンチェスター・シティのようなチーム相手に得点を決める姿を、誰もが待ち望んでいます。



もちろん楽観的になってばかりはいられない。ディフェンスの脆さや決定力不足が今シーズンは特に目立ち、PSVやトゥエンテとの差はなかなか縮まらない。リーグ3連覇ができるかどうかは微妙なところです。しかしそんな中でも希望はある。若きフィッシャーの活躍が、それを示してくれています。



2012年8月11日土曜日

[翻訳]エールディヴィジを観るべき5の理由

Goal.com Internationalに、「エールディヴィジを観るべき5の理由」という記事が載っていたので翻訳します。


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「ファンボメルの復帰、すべてのチームが攻撃的サッカーをすること、そして今シーズンエールディヴィジを観るべき5つの理由」

オランダのトップリーグはもはやヨーロッパのトップリーグの魅力を持っていないかもしれない。しかしこのリーグに注目すべき理由は多くある。

(ステファン・コエーツ、オランダサッカー記者)

2011-12年のエールディヴィジが終わって3ヶ月と少し、オランダのトップリーグは金曜夜、ブラバントのライバル同士NACとヴィレムIIが角を交えることでついに戻ってくる。土曜日にはPSV、日曜日にはアヤックス、フェイエノールト、トゥエンテ、AZの試合が待っている。

確かに、スター選手が次々と国外へ流出することによって、エールディヴィジはかつてのように魅力的で成功したリーグではなくなっているだろう。しかし、だからといって注目する価値がないということはない。

アヤックス、フェイエノールト、PSVのようなクラブは未だにヨーロッパ随一のクラブだ。それよりも小さなAZやトゥエンテのようなチームもヨーロッパの舞台で意義ある活躍をしている。

しかし、エールディヴィジはそれだけではない。オランダリーグを観るべき理由は無数にある。

Goal.comがオランダのトップリーグに着目すべき5つの大きな理由を列挙しよう。


・未来のスター

ヨーロッパのトップクラブが大きな費用をかけることなくチームを強化しようとするときにエールディヴィジに注目することをためらわないことは、決して偶然ではない。アヤックスとフェイエノールトはどちらも素晴らしいユース・アカデミーを持っており、息を呑むようなタレントを長年に渡って輩出してきた。PSV、トゥエンテ、フローニンヘン、ヘーレンフェーンといったチームも素晴らしいスカウトを持っている。

ズラタン・イブラヒモビッチ、ヴェスレイ・スナイデル、ロビン・ファン・ペルシーといったようなスターは皆オランダでプレーした経験を持っている。そして、オランダトップリーグには彼らと同じようなタレントが今でも多くいるのである。クリスチャン・エリクセン、ケヴィン・ストロートマン、ジョディ・クラシー、アダム・マヘルといった選手には明るい未来が待っているように見えるし、2012-13シーズンも彼らの才能を見せようと奮起するはずだ。

・マーク・ファン・ボメルの復帰

2005年夏にファン・ボメルがエールディヴィジをさった時、このミッドフィルダーが最高峰のレベルで成功するためのものを持っているかどうかということについては疑問符が投げかけられていた。過去数年でスペイン、ドイツ、イタリアにおけるリーグタイトルを獲得し、バルセロナでチャンピオンズ・リーグの覇者となった35歳の彼は今、そういった批判を黙らせたと言えるだろう。

しかし、オランダを去って7年後、この守備的ミッドフィルダーは母国に戻る潮時だと感じたようだ。ファン・ボメルはかつてのようなワールドクラスのプレーヤーではないかもしれないが、エールディヴィジのレベルでは多くのことを成し遂げることができるし、なによりも彼の比類なき勝利への執着心は今シーズン多くの印象的な瞬間を生み出すだろう。

・すべてのチームが攻撃的フットボールをする

ヨーロッパ中で、いわゆる弱小チームというものは、結果を得るために自陣に深くに下がり90分間を11人で守備することをためらわない。しかし、エールディヴィジにおいてはそのような姿勢は見受けられない。

それをナイーブと呼ぶかどうかは置いておくとして、この国での一般的な合意というのは、チームが相手を苛立たせることしかせずにスコアレスドローで終わるより、魅力的なフットボールをプレーして5対4で負けることのほうにより大きな名誉がある、というものだ。もちろん、シーズン終盤にかけてもう少し規律が見られるようにはなってくるが、一般的に言って降格の危機にあるチームがリーグトップのチームを攻撃的フットボールで打ち負かそうとするのを見ることができるだろう。

・世界で一番エキサイティングなタイトル争い

スペインでは、20チーム中18チームは、シーズンの最初からリーグ3位が彼らの獲得できる最も良い結果であろうということを知っている。セリエA、ブンデスリーガ、プレミアリーグも同じように、予想通りのチームにおおかた支配されてしまっている。しかし、オランダはそうではない。

過去5シーズンで4つの異なったチームがリーグタイトルを獲得することに成功している。さらに、昨シーズンは6チームが最後の最後までエールディヴィジのタイトルを争っていたのである。これは世界中でもっともエキサイティングなタイトル争いのひとつ―世界一ではなかったかもしれないが―であった。今シーズンも同じようになることを期待したい。

・時折ある笑える守備

リーグが誇る売りどころではないかもしれないが、エールディヴィジは時々笑いを誘うような守備を見せることがある。少しくらい笑える守備があってもいいだろう?

昨シーズン、アーセナルのチェルシーに対する5-3の勝利において、ジョン・テリーがロビン・ファン・ペルシーを止めようとしたことを思い出して欲しい。もしくは、ペア・メルテザッカーが時々見せるプレーでもいい。似たようなことがエールディヴィジのトップの戦いでは起こる。PSVの右サイドバック、スタニスラフ・マノレフはその「特徴的な」プレースタイルでカルト的な地位を手に入れている。オランダ代表チームは長年ディフェンスに苦しんでいる。リーグを見てみれば、その理由が分かるだろう。

(出典: "The return of Mark Van Bommel, all teams playing attacking football & five reasons to watch the Eredivisie this season", By Stefan Coerts http://www.goal.com/en/news/1717/editorial/2012/08/10/3296924/the-return-of-mark-van-bommel-all-teams-playing-attacking)








2012年6月3日日曜日

アヤックスはヨーロッパを制覇できるのか

今日はアヤックスの来シーズンへの展望について書いてみようと思います。


来シーズンの展望と言っても、移籍はユーロが終わった後に色々決まると思うので、誰が残って誰が入ってくるのかもわからない状況です(ちなみにフェルトンゲンはスパーズへの移籍がほぼ確定、ファン・デル・ウィールはローマからのオファーを断り、CL出場チームからのオファーを待つようです)。なのでどちらかというとチームのマネジメントのこと、ユースアカデミーのこと、戦術のことなど、アヤックスというクラブ全般に関わることについて、最近指摘されていることを掻い摘んでまとめてみようと思います。


ところで、Numberが最近、レアルとアヤックスのビジネスモデルを比較する記事を書いていました。指摘されていることは単純で、世界のスタープレイヤーを揃え、世界中のサポーターを「顧客」とみなすレアルに対し、アヤックスは若手を育てて売りさばくことによって、「ビッグクラブ」を顧客とするビジネスモデルを構築している、というお話です。


アヤックスが取り上げられたのは単純に嬉しいですが、やはりここまで単純化されてしまうと「うーん」と思うところもなきにしもあらず。ビッグクラブを相手どっていることは事実ですが、オランダ国内で見ればアヤックスはユース選手の強引な囲い込みを批判されたりしますし、金で物事を解決しようとしていると批判されることも多いからです。アヤックスはユースから優秀な選手を多く輩出し、その中で一握りはスナイデルやファン・デル・ファールトのように、世界有数のプレイヤーとしてビッグクラブに移籍していきます。しかし、ユース出身者がすべて他リーグのビッグクラブに移籍するわけではありません。トップチームの構想から外れたため、出場機会を得て実力を蓄えるために、国内の他のクラブに移籍する選手が大多数で、その中で一部がアヤックスのトップチームで活躍でき、さらにその中のごく一部のエリートがビッグクラブへの「商品」となるわけです。

この場合、どうなるかというと、毎年誰かしら、ビッグクラブの注目を集める「商品」を生み出す一方で、国内での戦力調達が比較的容易になります。アヤックスは欧州のトップリーグのチームに比べたら財政的に潤っているわけではありません(収入はレアルの5分の1)。しかし、それでもエールディヴィジの他のチームに比べたら裕福なチームなわけです。アヤックスが、国内の別のチームで活躍するアヤックス・アカデミー出身の選手に声をかけた場合、彼らは前向きな返事をすることが多い。トップチームでチャンスを掴むことは彼らの長年の夢だからです。だから、あとはクラブ間の合意次第でわりと簡単に選手が手に入ります。実力的に拮抗しているAZやトゥエンテからも選手がやってくるのは、アヤックスが国内ですら勝てない状況があったとしても、一定のアヤックス・ブランドが構築されているということにほかなりません。(ちょっと余談ですが、ヤンセンが移籍してきたのは、昔彼が起こした事件の賠償金の支払いが終わっておらず、お金が必要だったから、という噂がオランダ人の間で話されたりしていました)




さて、では今アヤックスの中で何が起こっているのか。


アヤックスの優勝について、ファン・デル・ヴィールは「集中力が研ぎ澄まされた」ことが要因であると語っています。途中で別段の戦術の変更があったわけではなく、チームとしての成熟度が高まっていった。印象としては後半になるにつれてデ・ブール監督はフォーメーションやメンバーを積極的にいじるようになったように思いますが、それは戦術が選手に浸透した結果でしょう。デ・ブールが賞賛されるのは、もっぱら経営層のゴタゴタから選手を隔離し、プレーに集中させたことです。彼自身、クライフとファン・ハールのどちらからも恩恵を受けてきた人物なので、複雑な気持ちだったということを語っています。

クライフはクラブのレジェンドで、サポーターからの支持も厚い。シーズン途中、サポーターがクライフへの支持を表明するために、前半14分に一斉にスタンドに入ってくる、なんてシーンもありました。またスタジアムには"Apple = Jobs, Ajax = Cruyff"といった横断幕が掲げられたりもしていました。クライフのような、個人の質を何よりも重要視する考え方は、やはりサッカーファンとしては魅力的だと思います。対してファン・ハールは規律を重要視する監督。日本代表監督で言えばジーコとトルシエの違い、と言ったらわかりやすいでしょうか。そこまで極端ではないかもしれませんが。


デ・ブールは、自身がアヤックスにコーチとしてやってきた時の状況を思い返し、「個人のクレバネスは失われていた。最も高いレベルでの個人のアクションは必要不可欠だ。我々は今、トレーニングにおいてより『個人化』されている(individualized)。これは非常に重要なことだ。」と語っています。彼がまず取り組んだのはユース育成システムの改革。クライフの目指した個人の意思決定能力の高さに依拠するトータルフットボールをアヤックスで復活させようとしたのです。


デ・ブールは自身の立ち位置について、以下のように語っています。

「私は、ルイ・ファン・ハールの、チームを継続的に限界まで物事を推し進めていくようにしたいという願望については共有してる。しかし、フットボールをプレーするということになると、私はヨハン・クライフの哲学に近い。シンプルなフットボールが最も美しい。しかしシンプルなフットボールをすることは、最も難しいことだ。」


彼の言うとおり、今シーズンのアヤックスはシンプルな哲学に基づいてプレーをしていました。フォーメーションが変わろうと、やることはショートパスでボールを保持し、ボールを保持していないプレーヤーが素早く動き出しを始める。GKやディフェンダーも含め全員がアクティブにゴールを目指す攻撃的サッカー。今シーズンのアヤックスは平均ボールポゼッション66%という数字をたたき出しています。そして、そのトータルフットボールを支えるのは、個人の意思決定(decision-making)です。クライフによると、組織的な側面にフォーカスしたファン・ハールとは異なり、自身の(そしてデ・ブールの)目指すモデルというのは、試合の重要な局面において選手個人が状況を打開する判断力を身につけることに焦点を当てています。これが、クライフ自身がプレーしている時代にミケルス監督によって確立されたアヤックスの伝統である、と。クライフの理論は、"Organized Chaos Theory"(組織されたカオス理論)と呼ばれることもあります。そして、デ・ブールの行った改革は、"restoration of intelligence"(知性の復活)と海外メディアに称されます。


個人の知性は、どこに現れるか。


ひとつは、スタッツ。数字です。今シーズンのアヤックスはボールポゼッション率が非常に高かっただけではなく、パス成功率に目を見張るものがありました。一試合平均741のパスのうち、619のパスが成功。実に84%の成功率でした。また、アヤックスは一試合平均18のシュートを打ち、その15%をゴールに結びつけています(一試合平均2.7ゴール)。当然、この数値はエールディヴィジの中では突出したものでした。逆に、被シュート数はRKCに続いてエールディヴィジで2番目に少ない数字を出しています。


そして、成績。二年連続のリーグ制覇を達成したことももちろん重要ですが、ユースチームの活躍(ほぼすべてのカテゴリーでアヤックスの下部組織のチームがオランダを制覇)がめざましく、今シーズンの間にトップチームデビューを果たした選手が多くいることも重要です(リへオン、ファン・ライン、ルコキ、クラーセン、コッペルス、オズビリズ)。ユースの活躍については前回の投稿で少し触れたとおりです。やはり注目はクラーセンでしょうか。毎年アヤックスは誰かしら優秀な若手を排出していて、今ならエリクセンが世界中の注目を集めているわけですが、エリクセンはデンマーク人。クライファート、スナイデル、ファン・デル・ファールトのような個人で攻撃の局面を打開できるオランダ人選手として、期待が高まるのも自然なことかと思います。ただ、やはり非凡な才能は感じさせるもののあと一歩、観客に訴えるものが足りない気もするので、来シーズンあたりにブレイクして欲しいところです(出場機会があるかどうか微妙ですが…)。ちなみにもうひとり注目のフィッシャーですが、来シーズンはまだA1にとどまりトップチーム昇格はまだ先になりそうです。


最後に、数字や成績では測れない部分。特にヤンセンの加入、エリクセンの成長によって、クリエイティブな働きをするプレーヤーが増え、見ていて楽しいフットボールが展開されていたのではないでしょうか。フェルトンゲンはその才能を十分に発揮したと思いますし、デ・ヨングもコンスタントに得点を重ねました。ユトレヒト戦でのスレイマニのアウトサイドでのクロスからのオーイェルのヘディングシュート、ザグレブ戦でのエリクセンの2アシスト、スピッツの代役として活躍したロデイロのチャンスメーク、ヤンセンのルコキへのロングパス、PSV戦でのアイサティのロングシュートなどなど、ファンタスティックなプレーが数多く生まれたシーズンでした。今シーズンのアヤックスはポゼッションをゴールにつなげる際に、個人技に頼る傾向がありました。スペースを生み出し、パスをつなぐところまではチームの戦術としてしっかりやる。しかしフィニッシュへ繋がるパスはエリクセンやスレイマニのセンスに頼っており、ブーリフテル、シグトールソン、デ・ヨングといったしっかりと点を決められる選手の力が最大限発揮された結果、優勝という結果を残すことができました。個人技と組織力がうまく融合しているのが、今のアヤックスだと思います。


そして、これらの成果は、選手として輝かしい実績を残したコーチングスタッフに支えられています。デ・ブール自身が世界的な活躍をした選手ですし、コーチ陣にはヤープ・スタム、マルク・オーフェルマルス、そしてアシスタントコーチのデニス・ベルカンプといった、オランダサッカーの一時代を築いた選手たちが揃っています。これが、個人にフォーカスしたトレーニングを可能にしています。



31回目の国内タイトル。ヨーロッパでインパクトを残すための準備は着々と進みつつあります。


(参考URL)
"Frank de Boer's vision: The whole is greater than the sum of its parts" (AFR)
http://afootballreport.com/post/22661498743/frank-de-boers-vision-the-whole-is-greater-than-the

"Frank de Boer helps take Ajax back to the future" (The Footy Blog)
http://blogs.thescore.com/footyblog/2012/05/17/moallim-frank-de-boer-helps-take-ajax-back-to-the-future/

"Ajax and the Return to Individualism" (La Croqueta)
http://jouracule.blogspot.jp/2012/02/ajax-and-return-to-individualism.html

"Frank de Boer's reinvention and the importance of being Vurnon Anita" (La Croqueta)
http://jouracule.blogspot.jp/2012/04/frank-de-boers-reinvention-and.html

"En dat is 31 - Ajax lift another Eredivisie title after an incredible second season under Frank de Boer" (Always Fitba)
http://alwaysfitba.blogspot.jp/2012/05/en-dat-is-31-ajax-lift-another.html

"Ajax - Frank de Boer Has Brought Back the Title and Tradition" (The Hard Tackle)
http://www.thehardtackle.com/2012/ajax-frank-de-boer-has-brought-back-the-title-and-tradition/

"Shooting Stars of the Eredivisie" (11tegen11.net)
http://11tegen11.net/?p=1690

「名門アヤックスが取り組む"革命"から見える『ユース育成システムの未来像』とは?」(Soccer King)
http://www.soccer-king.jp/column_item/20110124_ajax.html

「レアルとアヤックスの『顧客』は誰か?利益モデルが企業を特徴づける」(Number)
http://number.bunshun.jp/articles/-/224095







2012年5月3日木曜日

アヤックス連覇!それとちょっと来季について

アヤックスがVVVフェンロを2-0で破り、1試合を残してエールディヴィジ連覇を決めました。


2得点をあげたのはシーム・デ・ヨング。彼は去年の最終節、優勝がかかったトゥエンテ戦でも2得点。来シーズンのキャプテンの噂もある"False No.9"が、決めるべきときに決めてくれました。前節までの戦いぶりでほぼ優勝は確定しており、また失礼な言い方になってしまうかもしれませんが相手がフェンロということもあり、去年のトゥエンテ戦のような異状な緊張感はありませんでした。ファンにとっても去年の優勝のほうが嬉しかったでしょうが、デ・ブール監督は今シーズン起こったことを考えると今年の優勝のほうが嬉しい、と語っています。



で、その「今年起こったこと」ですが、アヤックスにとって今年は苦難のシーズンでした。


まずは怪我人。序盤はフェルトンゲンを欠いてスタート、両サイドバックのファン・デル・ヴィールとボイレセンも長期離脱、新加入のシグトールソンとブーリフテルも怪我、挙句の果てにはシームやヤンセンも抜ける時期があったり、スレイマニもシーズン後半を棒に振ったり。結局シーズン開始当初のスターティングメンバーの半分以上が離脱している状態が常態化する中で、シーズン通して怪我なく過ごせたのはキーパーのフェルメールと、アニタ、エリクセンだけでしょうか。

次に、チャンピオンズリーグの敗退。ヤンセン・ブーリフテル・シグトールソンという効果的な補強ができ、また多くの若手選手が成長したこともあり、チャンピオンズリーグではレアルマドリードに次ぐ2位でグループステージを突破できるのではないか、という見方が強かったと思います。リヨンもいいチームだけど、今年のアヤックスならいけるだろうと。実際、アヤックスは最終節までに得失点差でリヨンから優位に立っており、突破が濃厚でした。しかしレアル相手に善戦をしたアヤックスが決めたと思われた2ゴールが誤審により取り消し。そして八百長疑惑まで出たリヨンの7-1での勝利。悪夢のような敗退になってしましました。

また、今シーズンの大きな問題といえば、やはりクラブ運営のミスマネジメント。クライフのダービッツに対する人種差別発言があり、その後クライフがいない場でクライフと犬猿の仲のルイ・ファン・ハールをクラブGMに迎える決定がなされたことで、クライフがクラブを訴えるにまで至りました。結局、クライフを含めた全員が総辞職。株主との話し合いが行われたり、シーズン中盤はクラブを不穏な空気が取り巻いていました。


そんな中、デ・ブール監督は頑固とも見えるようなやり方でチームを導きました。相手が誰であろうと、誰がピッチに立っていようと、ミケルス、クライフといった偉人たちが作り上げてきた伝統のポゼッションサッカーを絶対に崩さず、若手もうまく起用しながら、冬の補強なしでシーズンを乗り切りました。時としてその頑固さは批判の対象になることもありましたが、シーズン途中からアニタをアンカーに置き、ボールポゼッション時には3-4-3、守備中には4-3-3というように形を変える流動的でモダンなフットボールがチームに根付き、一気に波に乗った感があります。怪我人の続出で結局アニタがアンカーに落ち着いた、という不可抗力的な側面はありますが、デ・ブールの指導が0だったわけではないでしょう。


また、ユースチームが目覚しい活躍を見せたことも、大きな収穫でした。アヤックスユースはヨーロッパの強豪クラブのユースチームが戦うNextGenシリーズにおいて、バルセロナやリバプールのユースをいとも容易く退け、決勝まで進出。結局決勝ではインテルユースにPK戦で敗れてしまいましたが、ダフィー・クラーセン、ヴィクトール・フィッシャー、ヨエル・フェルトマン、ステファノ・デンスウィル、レスリー・デ・サといった有望な選手の活躍はヨーロッパで大きな話題になりました。特にクラーセンは日本のサッカー雑誌でも将来のアヤックスを担う存在として取り上げられた逸材。またフィッシャーは未だにトップチームデビューを果たしていないものの、すでにマンチェスター・ユナイテッドが興味を持っているとも噂される17歳。昨シーズン途中のデ・ブール監督就任後、ユースチームはより個人に焦点を当てたトレーニングを行なっていると言われています。(詳しくはこの記事とかが興味深いです(英語))


「我々は自分たちのビジョンに忠実であり続けた」


こうデ・ブールは語ります。2位につけるフェイエノールトのクーマン監督も、デ・ブールは「タイトルに値する」と賞賛しています。


とにかく、苦しいシーズンだった分、嬉しい二連覇になりました。


二連覇はクラブの財政面を安定させる効果も持ちます。来シーズンはNECからデンマーク代表ラッセ・シェーネの加入がすでに決まっており、フェルトンゲンの後釜としてAZのモイサンデルがターゲットとなっている模様。同じくAZの左サイドバックのシモン・ポールセンについては移籍金0での獲得が可能なため、ターゲットになっています。また、ヘーレンフェーンのウイング、ルシアノ・ナルシンも長い間ターゲットになっており、より一層の戦力強化が図られそうです。


フェルトンゲンはビッグクラブへの移籍がほぼ確実、オーイェルは引退、アイサティもリーガ・エスパニョーラ行きを望んでいるという報道がありました。ブリキンも契約延長のオプションを行使しない模様で、チームにフィットしていないロデイロも移籍が濃厚と噂されます。ただ、バレンシアとの交渉を続けるファン・デル・ヴィールは残留に傾いているという噂もあります。ヤンセンについては、年齢的な衰えもあり、やはり昨年のリーグ年間MVPと言えどもスターティングメンバーを約束されているわけではないということを自覚しているようで、このことについてデ・ブールと少し話をしてから去就を決めるとのこと。もっとも、ヤンセン自身はできることなら残りたいと言っており、話し合いも「スターティング・スポットを要求するようなものではないし、10分も話せば十分。自分がチームにとって重要だということがフランクから確認できればそれでいい」というようなことを言っているので、できれば残って欲しいなと思います。


スレイマニは年俸の高さがネックと長年言われていますが、減俸で契約更新交渉を行う模様。ただ、ナルシンが来て、シグトールソンやブーリフテルが万全の状態になった場合、中盤をアニタ・ヤンセン・デヨング(もしくはシェーネ)で構成して、エリクセンをウイングに出すという起用もありえたりするので、もしかしたらスレイマニは放出もありえるかもしれませんね。


スピッツ(センターフォワード)の位置にも、監督は若手の有望なプレイヤーを獲りたいと言っているようなので、ポジション争いはより一層厳しくなることが予想されます。キャプテンを噂されるシームは中盤の方がやりやすいと言っているようですが、テクニック面で他の選手より特別優れているわけではなく、かといって彼の得点感覚と勝負強さは捨て難いし…といったように、デ・ブールにとっても嬉しい悩みが増えることになるかもしれません。



個人的には今シーズン好調でチームを引っ張ったアニタやシームは変わらずレギュラーで居て欲しいし、若手にもチャンスを与えたい(もうちょっと言うとロデイロに残ってプレーしてほしいけど、ちょっと無理かな…)。ただ、ヨーロッパで勝つためには今のメンバーの中で誰かをベンチに座らせる決断も重要。来シーズンこそがデ・ブールの手腕が試される1年になるのでは。


最終節フィテッセ戦は若手主体になりそうなので(VVV戦がフェルトンゲンのラストゲームだったとデ・ブールが明言)、来季を占う意味でも楽しみな一戦。






2012年2月25日土曜日

初投稿: ヨーロッパリーグ・マンチェスターU対アヤックスを観て思ったこと

初の投稿です。

ブログの説明に書いてあるとおり、このブログはいわばサブブログで、忘備録として、もしくは英語を書くのがめんどくさいときにダラダラとサッカーについて思ったことを書くために使っていきたいと思います。

先ほど、ヨーロッパリーグのマンチェスター・ユナイテッドvsアヤックスについて本ブログの記事を書きました。(Europa League - Manchester United vs Ajax: Ajax, We Are Proud of You!)


結果は1-2でアヤックスの勝利。エルナンデスの開始直後のゴールのあと、オズビリズのゴールとアルデルウェイレルトのヘディングでアヤックスが逆転。デ・ブール監督はオールドトラフォードで勝利した初のオランダ人監督となりました。左ウイングでプレーしたセルビア代表のスレイマニもユナイテッドのホームで勝ったことは「名誉」と言っています。

AJAX.nl


もちろん、多くのサッカーファンは単純にユナイテッドの調子が悪かっただけだと言うと思います(というか実際にいろんなところで言われてますね)。ルーニーもいなかったし。でも、今シーズンできる限りアヤックスの試合を見続けている身からすると、国内のリーグ戦やチャンピオンズリーグのグループステージにおけるパフォーマンスと比べても、ベストと言えるサッカーをアヤックスが見せたことも事実。アヤックスのプレーヤーと戦術の魅力が色濃く出た試合だったと思います。


~コラム: アヤックスの戦術~アヤックスのフォーメーションは4-3-3。中盤はアンカーを一枚置き、オフェンシブミッドフィルダー2人を配置します。ウイングは初期配置としては大きくサイドに張り出していますが、今シーズンは右サイドに左利き、左サイドに右利きのウイングを使うことが多いのでカットインで攻撃のリズムを作ります。センターフォワードの役割は使われる選手によって変わってきますが、ユナイテッド戦でウルグアイのテクニシャン、ロデイロが使われたように、もともとミッドフィルダーで足元の技術の高い選手を割り当て、前線でのポゼッションを可能にするゼロトップのような戦術を用いることもしばしば。中盤から前線にかけての攻撃の中心となるのはデンマーク代表の若手天才プレーメーカーのエリクセン。彼のパスから多くのゴールが生まれています。後方では、キーパーはほとんどロングボールを蹴らず、センターバックの二人かサイドバックもしくはアンカーの選手にショートパス・スローを行うことがほとんどです。センターバックのフェルトンゲンとアルデルウェイレルトはふたりとも視野が広く正確な縦パスを供給することができます。中でもフェルトンゲンはアヤックスのボール・ポゼッションの中心と言える存在。彼が後方からビルドアップすることによってピッチを広く使ったポゼッションが可能になります。先日のエールディヴィジのNEC戦では、これに加えてアンカーに入ったアニタがディフェンスラインまで積極的に下がってボールを受け、センターバックをワイドに開かせ、サイドバックを押し上げる戦術をとっていました(これはバルセロナが3バックを用いるときと似ていますね)。また、サイドバックはもともと右サイドにオランダ代表ファン・デル・ヴィール、左サイドにデンマーク代表ボイレセンという攻撃参加に特徴のあるプレーヤーが揃っているのですが、ふたりとも怪我で離脱中。ふたりがいるときは中盤のプレーヤーが中央寄りでキープして、サイドバックの上がりを効果的に利用する形が特徴的になります。ただし堅実なプレーが特徴のファン・ラインとコッペルスが両サイドに入った今回のゲームでは、そういったオーバーラップの動きはあまり見られず。



ということで、コラムでかなり大雑把にアヤックスの戦術をまとめてみたのですが(詳細は本ブログの記事を参照してください)、ユナイテッド戦はうまくポゼッションができていたと思います。もちろんポゼッションが高いチームがすなわち勝てるというわけではありませんが、アヤックスはポゼッションありきのチーム。レアル・マドリー相手にもポゼッションでは負けないようなチームです。今回の試合もポゼッションは58%と大きくユナイテッドを上回り、リズミカルな攻撃を行なっていました。右ウイングのオズビリズは1得点1アシストの活躍をしただけでなく、独特のステップのドリブルでユナイテッドのファビオを圧倒していました。また、逆サイドの方では足元の技術のあるロデイロとスレイマニはふたりのコンビネーションで相手を崩すことができるので、両サイドから良い攻撃ができていたと思います。中盤のエリクセンとデ・ヨングも調子がよかったようです。スコールズが途中から入ってきてからはさすがの落ち着きで中盤を制圧され始めた感はありますが、ポゼッションでも崩しのアイディアでも今回ばかりはアヤックスが一枚上手だったのでは。



試合の内容についてはそんなところなのですが、アヤックスファンとしてはとても感動したゲームでしたねー。そもそも90分間通して集中力を切らさずやれたゲームなんて今シーズンほとんどない。笑 スレイマニは「失うものは何もなかった」と言っていましたが、まさにそのとおり。最高の舞台で最高のパフォーマンスを披露してくれたと思います。明らかに選手の質で劣っているアヤックスの若い選手たちが勇敢にユナイテッドに挑んでいく様は、感動的でした。


本ブログで書いたように、この試合に出場した選手はスレイマニとロデイロ以外すべての選手がユース出身、しかもファンライン、コッペルス、オズビリズ、セレロ、クラーセンらはここ1年間くらいの間にデビューした選手です。そういった選手たちがこのビッグゲームを経験したのは、本当に大きい。ボスマン判決以降金満からは程遠いオランダのチームは明らかに弱体化してしまいましたが、アヤックスには世界最高レベルのユースアカデミーがある。今シーズンはなかなか勝てないゲームが続き、暗い気分にもなりましたが、こういった若手がユナイテッド相手に威風堂々と戦う様を見ると、まだ希望を捨てきらなくてもいいのかな、という気分になります。


特に僕が注目しているのは、途中出場したダフィー・クラーセン。19歳のオランダ代表で、昨年末の試合でトップチームでのデビューを果たした選手です。ミッドフィールダーとフォワード両方でプレーでき、確かな足元の技術を持った選手。シュートセンスもなかなかのもの。この試合ではあまり目立った活躍をすることはできませんでしたが、彼に対する地元アムステルダムの期待は膨らんでいて、かつてアヤックスが産み出したクライファート、ファン・デル・ファールト、スナイデルといったオランダ人選手たちのような成長を期待するような声も大きい。日本のサッカー雑誌も、彼をプッシュしてるところがありますね(WORLD SOCCER DIGESTとか)。


いずれにせよ、歴史あるサッカークラブとしての誇りと、未来に対する希望の両方を見せてくれた試合でした。エールディヴィジを追いかけるツイッターユーザーも、こんなこと言ってます。




"Admirable philosophy"とか"done themselves proud"っていう言葉に、ちょっとファンとしてはウルッと来ちゃいますね。世間一般的には「ユナイテッド不覚」っていう感じでしょうけど、僕はこの試合を忘れません。いいゲーム見させてもらいました。


次は日本時間の26日(日)20:30から、エールディヴィジのエクセルシオール戦です。リーグ上位クラブが軒並みヨーロッパリーグで勝ち進んだので、リーグだけに集中できるアヤックスの復調に期待。