アヤックスは先日行われたヨーロッパリーグ一回戦、ステアウア・ブカレストに敗北しヨーロッパの舞台から姿を消しました。アムステルダム・アレナにおける第一戦は2-0で勝利したものの、敵地に乗り込んだ第二戦では90分戦って0-2、延長線でも決着がつかずPK戦で敗北が決定しました。
アヤックスはこれで二年連続でチャンピオンズリーグのグループリーグ敗退からヨーロッパリーグに回り、一回戦で敗退していることになります。
もっとも、去年は一回戦の相手はマンチェスター・ユナイテッド。それでも敵地オールド・トラッフォードで勝利を収めた実績もあるだけに、明らかに格下のステアウア相手の敗退は失望的な結果と言わざるを得ません。今年のヨーロッパリーグ決勝はアムステルダム・アレナで行われる予定なだけに、是が非でも勝ちたかったアヤックス。しかし肝心な所での勝負弱さが出てしまい、願いは叶いませんでした。
その後のエールディヴィジの試合でもアヤックスは苦戦。EL後のADOデンハーグ戦では圧倒的に攻めながらも勝ちきれず1-1でローダJC戦に続く引き分け。昨日のトゥエンテ戦では2-0で勝利と持ち直したものの、首位PSVとの勝ち点差2をひっくり返すことができるかどうかは微妙なところです。
アヤックスの敗退に伴い、エールディヴィジのチームはチャンピオンズリーグからも、ヨーロッパリーグからも、姿を消したことになります。エールディヴィジのクラブは、小野伸二が所属していたフェイエノールトが2002年にUEFAカップを制して以降、欧州でタイトルを取ることができていません。今回は、アヤックス自体の弱体化と、エールディヴィジ全体の衰退について考えてみたいと思います。
アヤックスの危機
アヤックスは1994-95シーズンに欧州を制覇しました。当時のアヤックスは若手とベテランが融合し、ユースアカデミーが生んだ10年に一人といったような逸材がたまたま奇跡のように揃っていたからこそ結果を残すことができました。しかし、ボスマン判決以降、オランダのクラブからの選手の流出は止まることがなく、エールディヴィジは苦しい時期を迎えています。
アヤックスのユース育成は全世界に影響を与えています。それ自体は素晴らしいことですが、国内外問わずアヤックスのモデルをコピーするチームが増えてきました。現在もアヤックスは多くのタレントを輩出していますが、圧倒的な才能を持ったオランダ人のタレント―例えばクライファート、スナイデル、ファン・デル・ファールトのような―を輩出することはできていません。
オランダ代表の各カテゴリーに、何人のアヤックスの選手が含まれているのか以下の表にまとめてみました。
カテゴリー | GK | DF | MF | FW |
---|---|---|---|---|
Oranje | 1 | 2 | 0 | 0 |
Jong Oranje | 0 | 0 | 0 | 0 |
Beloften | 0 | 3 | 0 | 1 |
Oranje onder 19 | 1 | 0 | 1 | 1 |
Oranje onder 17 | 1 | 4 | 1 | 1 |
合計 | 3 | 9 | 2 | 3 |
※それぞれのカテゴリーの説明↓
- Oranje…フル代表。フェルメール、ブリント、ファン・ラインが選出。2013年2月6日親善試合イタリア戦。
- Jong Oranje…オランダ代表リザーブチーム。2月5日クロアチア戦。フィテッセのファン・アーンホルト、PSVのワイナルダム、ボルシア・メンヘングラードバッハのルーク・デ・ヨングなどが選出
- Beloften…Jong Ajaxなどのリザーブチームが集結するリーグ戦からの選抜。2月6日アイルランド戦。
- Oranje O19…19歳以下代表。2月6日スコットランド戦。
- Oranje O17…17歳以下代表。ポルトガルで行われる4カ国対抗戦へのメンバー。
明らかにDFばかりというのがわかります。もちろんDFのタレントが出てきているのはいいことではあるのですが、MFやFWでオランイェレベルの選手が出てきていないのは非常に気にかかります。それに比べるとフェイエノールトはクラシー、フィルヘナ、ボエティウス、アチャバルなど中盤・前線に多くの素晴らしい若手選手を揃えています。
ちなみに以下がそれぞれのカテゴリーで選ばれているMF・FWの選手です。
- Beloften…ヨディ・ルコキ(FW)
- O19…アブデルマレク・エル・ハスナウィ(MF)、ニック・デ・ボント(FW)
- O17…メルフィン・フィッセルス(MF)、ヤメス・エフモルフィデス(FW)
この他にも暗いニュースはいくつかあります。昨年決勝まで進出したNextGenシリーズですが、今年はベスト16で敗退。昨年はフィッシャーやクラーセンがオランダ国外のメディアでも注目を集めましたが、今年はそこまで注目される選手がいなかったことも気になります。
暗い話題ばかりに触れるのもなんなんで、明るい側面にも触れておきます。O19については、プレセレクションにはGKで選ばれたミッキー・ファン・デル・ハート、MFエル・ハスナウィとFWデ・ボントの他にもFWダンゼル・グラーフェンベルフ、MFシナン・ケスキン、GKピーテル・レーヴェンブルフ、FWクエンシー・メニグが選ばれています。ちなみにNextGenシリーズのHPではメニグが注目選手として紹介されていたりもします。
ただ、いずれにせよ、10年に一度のスターレベルの選手が出てきているわけではないのが現状です。今年はフィッシャーがブレイクしていますが、彼も純粋な生え抜きとは言えない選手。スナイデルのように、8歳の頃からアヤックスのユースで育ってきたようなオランダ人スター選手は、残念ながら出てきていません。
エールディヴィジの抱える問題
よく言われるように、エールディヴィジのすべてのクラブの予算を合わせても、レアル・マドリーの予算には及びません。そして各クラブの財政難は、近年特に顕著です。
2010年、120年の歴史を誇るオランダ最古のクラブ、ハーレムが破産しました。2011年にはRBCローゼンダール、そして2012年にはAGOVVが破産。2009-2010シーズンにオランダの全クラブで計上された負債総額は約100億にもなりました。
KNBV(オランダサッカー協会)はUEFAのファイナンシャル・フェアプレー制度に合致する形で、より厳格なライセンス制度を導入し、クラブの財政状況に関する調査を行いました。この制度の元、KNBVはオランダの各クラブに定期的な財政状況の報告を義務付け、各クラブを財政的に「不適切」・「適切」・「素晴らしい財政状況」の3カテゴリーに分類しました。この結果2010-11シーズンにおいて、13のクラブが「不適切」のカテゴリーに分類されることとなりました。
しかしながら、少しずつ状況は改善されています。2011-12シーズンにおいて「不適切」カテゴリーのクラブは6にまで減りました。
さらに、2012年、FOXが10億円以上とも言われる巨額で、12年間分のエールディヴィジの放映権を獲得。これによって各クラブの放映権料による収入が増えることが期待されています。
最後に
いずれにせよ、短期間でアヤックスやエールディヴィジの苦境が改善される見込みはありません。アヤックスの場合、今夏はエリクセンの放出がほぼ決定的なので、戦力のさらなるダウンは免れませんし、エールディヴィジのクラブが欧州で結果をコンスタントに残せるようになるには長い時間が必要でしょう。アヤックスについては、まずはリーグ3連覇、そして来季こそはCLでグループリーグを突破してほしいですね。
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Nick de Bondt |