2012年11月24日土曜日

アヤックスの未来とヴィクトール・フィッシャー



ブログを書いていない間に様々なことが起きました。チャンピオンズリーグ・マンチェスター・シティ戦での勝利、デ・カイプで引き分けに終わったクラシケル、フィテッセ戦の敗北による無敗記録の終了、ファン・デル・サールのマーケティング・ディレクター就任など。


今回フォーカスするのは、若干18歳、アヤックスの若き期待の星、ヴィクトール・フィッシャー(Viktor Fischer)です。Viktor Fischer - Wikipedia


フィッシャーはウイングとしてもCFとしてもプレーでき、相手ディフェンスを切り裂くシンプルで効果的なドリブルが特徴的な選手。パスセンスや得点感覚にも優れており、特にGKとの一対一では上手さが光ります。デンマーク代表にもすでに選出されています。



フィッシャーは10月20日、ヘラクレス・アルメロ戦でエールディビジデビューを果たし、KNBVベーカー杯のONSスネーク戦でトップチームにおける初ゴールをマークしました。2-2の引き分けに終わったチャンピオンズリーグ、アウェーでのマンチェスター・シティ戦でも終了間際に交替で出場を果たし、チャンピオンズリーグデビューも飾っています。



彼のエールディビジ初ゴールは、彼にとって初のスターティングメンバー入りの試合ともなったPECズヴォレ戦でした。この試合でフィッシャーは2得点をマークすることとなります。



90年代中盤の黄金期の後、長らく低迷しているアヤックスですが、ここ数年はクラブのレジェンドであるヨハン・クライフの哲学に沿ったクラブ運営を行うことによって、組織改革がなされています。今では、監督のフランク・デ・ブールを筆頭にユースチーム監督のウィム・ヨンク、アシスタントコーチのデニス・ベルカンプ、スポーツ・ディレクターのマルク・オーフェルマルス、そして新たに就任したマーケティング・ディレクターのエドウィン・ファン・デル・サールといった、クラブの黄金期を支えたオランダ人たちが要職に就いています。彼らの目指すのはクライフの哲学の実現。すなわちユース育成をクラブの根幹とし、伝統的な4-3-3でワイドにサイドを使ってボールを保持する攻撃的フットボールを行うことです。


だからこそ、ユース出身選手の活躍は不可欠。クライフを神格化するアムステルダムのファン達にとって、ユース出身選手が活躍するということは、試合結果やリーグ順位がどうであれ、クラブが正しい方向に向かっていることを示すことになるのです。


そんなクラブの姿勢を表す印象的なエピソードを紹介している記事がこちら。
AJAX AND THE ART OF BICYCLE MAINTENANCE



11月3日、肌寒いアムステルダム・アレナでアヤックスは0-2でフィテッセに負けようとしていました。アヤックスはオランダ王者。ファンがこの内容に満足するはずはなく、ブーイングと指笛が鳴り響きます。


そんな中ベテランのポウルセンに替わってピッチに入ってこようとしていたのは、18歳のフィッシャー。ブーイングは止まり、スタジアムを楽観的な雰囲気が包み込みます。


ファン達は、フィッシャーがハットトリックを決めてくれることを期待しているわけではありません。今すぐには結果を出せなくてもいい。クライフも言うように、トップクラスのプレーヤーを育てるのには時間がかかるから。アムステルダムのファン達はそのことを世界中のどのクラブのファンよりもよく知っています。


Don't worry about a thing, 'cause every little thing gonna be alright.
大丈夫、心配しないで。どんな小さなことまでも、きっとうまくいくから。
(Bob Marley - Three Little Birds)





これはフィッシャーに限った話ではありません。今もクラブは優秀な若手を多く抱えています。フィッシャーを筆頭に、ファビアン・スポークスレデ、ルーカス・アンデルセン、イラン・ボッカーラ、ダフィー・クラーセン、ダニー・フーセンといった選手たちが、往年の名選手たちの指導の下で、着実に実力を蓄えています。


De wereld van Fischer
フィッシャーは、アムステルダム川のほとりにある美しいホストファミリーの家で朝目覚め、学校の勉強を行い、昼になるとバッグに荷物を詰め込み、自転車に15分ほど乗って、クラブ施設のDe Toekomstへ向かいます。そこでフランク・デ・ブールから戦術的な指導を受け、デニス・ベルカンプからどうやって得点を決めるべきか教えてもらえるのです。若手選手にとってこんなに素晴らしい環境があるでしょうか。



焦らず、アヤックスでじっくり成長してくれればいい。近い将来、彼らは必ずやアヤックスをリーグ優勝に導き、チャンピオンズリーグの決勝トーナメントで結果を残せるチームに再生してくれる。そんな淡い期待を、アヤックスのファンは抱き続けています。



De Toekomst、オランダ語で「未来」を表すこの言葉。苦しい時期があっても、自分たちの信念を曲げずにいれば、必ずや未来はある。フィッシャーがいつの日か、チャンピオンズリーグ決勝トーナメントの舞台で、何十億もの金をかけてできあがったマンチェスター・シティのようなチーム相手に得点を決める姿を、誰もが待ち望んでいます。



もちろん楽観的になってばかりはいられない。ディフェンスの脆さや決定力不足が今シーズンは特に目立ち、PSVやトゥエンテとの差はなかなか縮まらない。リーグ3連覇ができるかどうかは微妙なところです。しかしそんな中でも希望はある。若きフィッシャーの活躍が、それを示してくれています。



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